天皇杯4回戦、横浜Fマリノス戦。
僕ら山雅のような小さなクラブにとって、ここまで勝ち上がるのは決して簡単なことではありませんでした。
僕らの天皇杯が始まったのは、県選手権の準決勝からでした。
トモハルのアルティスタ東御を下し、まずは県選手権の決勝へ。
その決勝で長野とのダービーをPK戦の末に制して、出場権を獲得。
1回戦は亮平がいる丸岡フェニックスに苦労しながらも勝利。
2回戦、横浜FCをアルウィンに迎え、2−0と快勝。
そして3回戦、ビッグスワンでアルビレックス新潟を相手に堂々の1−0勝ち。
ここでこうやって書き並べると、あっと言う間に済むことです。
けど実際は、こうやって書くだけじゃ伝えきれないほどの戦いがあった。
もうやられるんじゃないかと、誰もがそう思ってしまいそうな瞬間さえあった。
それでも最後まで気持ちを切らさずに戦い、ここまでやってきました。
そんな天皇杯での戦い。
試合を重ねるごとに、僕らの中で強くなっていった想い。
それは「松田直樹と共に、マリノスと戦う4回戦へ行く」ということでした。
正直に言えば、過剰なまでに松田選手のことに触れ、語るのは好きではありません。
どんなことを持ち出してきても、心地よい美談になんてならないと思うからです。
彼が亡くなったことは、僕にとってはただただ悲しい出来事でしかない。
少なくとも今はまだ、そういう気持ちなのです。
ただそれでも、ここまで辿り着こうとする選手の頑張りは並々ならぬものがあった。
そしてそんな戦いの節目には、いつも松田選手のユニフォームやリストバンドを掲げた選手たちの姿があった。
「マツと一緒に戦うんだ」という意思を、示すかのように。
この試合を語るにおいて、巷では「神様が巡り合せた」なんて表現が使われることもある。
しかし、僕はそうは思いません。
ここまで僕らを導いたのは、神様の意思なんかじゃなく、僕らの選手たちの意思だと思うから。
これだけは、はっきりと言っておきたい。
山雅の選手たちは、マツと共に戦っています。
それは今も、全く変わっていないのです。
だからこそ、このマリノス戦。
そんな意思を僕らサポーターがしっかり受け止めるためにも。
マツと共にと、ここまで頑張ってくれた選手の気持ちに応えるためにも。
僕らは、マツのチャントを歌おうと思います。
16年間を過ごしたマリノス。
半年しか過ごすことのできなかった山雅。
過ごした時間の差は、確かにあるのだと思います。
それでも、マリノスに向かって「松本の松田直樹」と叫ぶことができるのか。
正直言って、葛藤がありました。
だけどそれでも、僕らは歌おうと思います。
僕らの選手たちが、マツと一緒にここまで来たと示してたのだから。
この試合でもマツと一緒に戦うのだと、思っているのだから。
マリノスの皆様。
我々がこのような方針を表明することで、複雑な思いをされる方もいらっしゃるかもしれません。
それは我々にとっても本意ではありませんし、大変申し訳なく思います。
しかし、我々はサポーターとして、松田選手と共に戦いたいという、仲間の想いを放っておくことはできません。
うちのユニフォームに袖を通し、共に戦っている仲間として、ここで歌わない訳にはいきません。
だから試合前に一度だけ、松田選手のチャントを歌おうと考えております。
大変恐縮ですが、ご理解いただけますよう、お願い致します。
天皇杯4回戦、横浜Fマリノス戦。
我々は全力でぶつかります。
選手たちと共に、強い意志を持って。
ULTRAS MATSUMOTO コールリーダー 小松洋平